KAWAI Q80との出会い
KAWAI Q80 1988年発売。定価69800円。32トラックMIDIシーケンサー。各ソングごとに100のモチーフと呼ばれるパターンメモリエリアを搭載。本体メモリ26000音。2DDフロッピードライブ搭載。
こいつとの出会いは衝撃的でした。それまでYAMAHA QX5で打ち込みをしていての不満が一気にすべて解消されました。発売後間もなく飛びついて購入しました。まさに一目惚れ状態でした。どんなにこいつが素晴らしいのか、ご説明いたしましょう。
まず、発売から20年以上経過していますが、我が家ではいまだに現役です。多分、一生手放せません。身体の一部のようなものです。本体メモリは電源を切ってもバックアップがあるので電源を入れれば、常に即作業に取りかかれます。トラック数も当時のシーケンサーとしてはずば抜けた32トラックを装備しています。Q80では各トラックに異なるMIDIチャンネルを混在させることはできません。ですので各トラックに最初にMIDIチャンネルを割り当てておく必要があります。私の場合、ラフな曲のスケッチを作る場合、1〜4トラックあたりまでをch10に割り当て、キック、ハット、スネア、おかずみたいな感じでベーシックなドラムパターンを作ります。次に5〜8トラックをch1にしてベースパターンをいくつか打ち込んでいきます。あとは残りの9トラック以降にウワモノをかぶせていきます。
こいつのすごいのはここからです。使いやすさ、その1は、各トラックのループさせる小節数がバラバラでもOKということです。例えば、キックは1小節ループ、ハットは4小節、スネアは8小節ごとにフィルインが入るなんてこともスムーズにループさせることが出来ます。しかも再生中に各トラックのON/OFF、差し替えなんかも出来るので、ループを走らせながらDJ的にパートを組み合わせていけるのです。私はこれが大好きで16トラックくらいのパターンをループさせながら曲をスケッチしてイメージを膨らませていくという曲作りにハマってしまいました。当時、この方法が出来たシーケンサーは他になかったと思います。まぁ、今で言えばGrageBandとかAcidみたいな、はたまたAbleton Liveみたいな手法なんですが。
こうして曲を煮詰めていってパターンの組み合わせみたいのが出来てきたら、さらに各ソングごとにモチーフと呼ばれるパターンをメモリしておけるエリアが100個もありまして、完成したパーツをモチーフにコピーしていって、最終的にマスタートラックみたいな使い方で残ったトラックにモチーフを並べていってソングを完成させる感じで打ち込んでいましたが、よくライブではソングすら組まずに32トラックを全部使ってループものだけでオケを流し、リアルタイムにトラックをON/OFFして演奏するなんてこともやってました。
それから、もうひとつ当時画期的だったのが、もっぱらリアルタイム入力派だった私の拙い演奏を支えてくれた「アクティブクオンタイズ」という機能でした。クオンタイズというのは入力された演奏情報を16分音符や32分音符などの単位でキッカリとタイミングを補正してくれる便利な機能なのですが、Q80のそれはこれをキッカリではなく指定した幅を持たせて(つまりモタリとかツッコミ感といった演奏のニュアンスを残して)補正してくれるというものでした。これにより、打ち込みといっても生演奏のニュアンスを残した演奏再生が可能となったのです。これは本当に気に入っています。そしてフロッピードライブも装備していましたので、曲がどんどん増えてもOK、これも大きかったですね。これだけの機能で定価69800円は衝撃でした。いまだに隠れたファンが多く中古市場でも手に入りやすいといいます。私は使い込み過ぎてPLAY/STOP/RECあたりのボタンがフッカフカになってしまい、途中2台目を中古で手に入れ、今現在現役で使っているのは2台目君です。後にバージョンアップ版としてQ80EXという後継機が発売されましたが、中古で狙うならこちらのほうがおすすめです。
80年代当時のMIDIシーケンサー事情というとYAMAHA QX派とRoland MC派の2代派閥が有名ですが、私個人としてはこのKAWAI Q80こそ史上最高のMIDIハードシーケンサーだと思います。実際、当時周りのいろんな人に勧めまくっていました。PC全盛の今、敢えてハードシーケンサーを使うメリットはあまりないとは思いますが、ご紹介したような曲作りの方法(まあ、これもPC上で手軽にできますが・・・)ならば必ずや、あなたの創作意欲を鷲掴みにすることでしょう。中古市場やオークションで発見したならば騙されたと思って入手されてはいかがでしょう?もし万が一、「騙された!使えねぇよ!」という場合、私が責任を持ってスペアとして引き取らせていただきますよ。